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VMDと売り場づくり


ファッションの新しいビジネスモデルが次々に生まれ、年代によって小売業界の主要なプレイヤーが交代してきた30年を振りかえると、背景には経済状況の推移がみえてきます。経済動向によって生活者の購買行動も当然変化しますが、どのような状況下でもお客さまにとって見やすく・分かりやすく・選びやすい売場をつくり、価値の提供を担うのがVMDの役目でしょう。今後、スマホ片手にSNSで情報を受け取りながら買い物をするお客さまとともに、売場づくりも大きく変化していくことでしょう。

1. 日本のVMDの始まり

60年代にアメリカで生まれたVMDは70年代に、日本に上陸しました。 それまで商品の演出、提示、陳列は主にディスプレイ(display)という言葉で括られていました。
70年代後半のVMDに於いて、ディスプレイはマーチャンダイジングの一部と位置づけられ、演出(VP)、提示(PP)と陳列(IP)の区別に繋がっていきます。
日本では、百貨店がVMDの概念を取り入れ、見やすく・分かりやすく・選びやすい売り場の基本をつくりました。

ニューヨーク:マーシーズのWD、ツインタワーが健在

1970年代 西武百貨店渋谷店(写真1)

ロンドン:リージェントSTのイルミネーション、迫力満点

1970年代 西武百貨店渋谷店(写真2)


 

2. 80年代の百貨店のVMD

1987年に日本ビジュアルマーチャンダイジング協会が創立会員99名により設立され、同年に厚生労働省(当時は労働省)による「商品装飾展示技能検定」が開始されました。
当時はバブルと呼ばれた好景気で、日本の百貨店はウィンドウ(VP)で華々しく情報発信し、売り場でもテーマに沿った発信型プレゼンテーションを行なっていました。企業間では差異化戦略の重要な手法としてのVPをVMDと位置づけ、「サロン発想の売場づくり」や「アメニティの追求」、「アートとディスプレイのセッション」「エンターテイメント性溢れたVP」など、「ワンランク上」を合い言葉に売場構築が進められました。そしてそのVPは、百貨店に足を運ばれたお客さまに対する心からのおもてなしという認識のもと、より快適な時間を過ごせる空間づくりが模索されました。
ニューヨーク:マーシーズのWD、ツインタワーが健在

1980年代 伊勢丹新宿本店(写真3)

ロンドン:リージェントSTのイルミネーション、迫力満点

1980年代 三越百貨店銀座店(写真4)

パリ:フランスらしいシャンデリアが美しい

1990年代 伊勢丹新宿本店(写真5)

ニューヨーク:マーシーズのWD、ツインタワーが健在

1990年代 三越百貨店銀座店(写真6)

ロンドン:リージェントSTのイルミネーション、迫力満点

1990年代 伊勢丹新宿本店(写真7)


 

3. GMSの売場

80〜90年代、GMSはアイテム編集した平場をベースにして、さらにハコ型ショップやプライベートブランドのコーナーを展開しました。
主に生活慣習をテーマにしたVPと環境装飾では、GMSなりの「ワンランク上」のVMDが展開されました。

4. セレクトショップの台頭

ビームス、シップス、ユナイテッドアローズを中心にセレクトショップが台頭します。
セレクトショップはバイヤーのセレクト力によって売場編集され、複数ブランドの世界観が表現されている売場づくりが特徴です。
輸入及びオリジナルの衣料品や雑貨を販売し、仕入商品で素早い流行を追いながら、利益率の高い自社開発商品を組み合せたビジネスモデルで当時のおしゃれな若者の共感を得ました。
ニューヨーク:マーシーズのWD、ツインタワーが健在

2000年代 伊勢丹新宿本店(写真8)

ロンドン:リージェントSTのイルミネーション、迫力満点

2000年代 伊勢丹新宿本店(写真9)


 

5. Fast fashion襲来

2008年9月銀座にH&Mが、2009年4月には原宿にFOREVER21が初上陸し、話題となりました。低価格に抑えた商品を、短いサイクルで回転させるオペレーションの売り場作りで、SPA(speciality store retailer of private label apparel)の新しいVMD手法が注目されました。
スタイル提案を前提に商品企画をする「カセットMD」で、カラーは基本的に1カセット3色ほどに絞られています。カセット内は何パターンもコーディネート可能で、基本的に本国からのマニュアルにより展開・陳列の指示があり、店独自でコーディネートを考える必要がありません。
ニューヨーク:マーシーズのWD、ツインタワーが健在

2010年代 H&M新宿店(写真10)

ロンドン:リージェントSTのイルミネーション、迫力満点

2010年代 H&M新宿店(写真11)


 

6. ライフスタイルShop時代へ

21世紀に入ると生活スタイルの提案が重要な要素となり、多くの人へ向けた売場作りから、趣味や嗜好にこだわる人にターゲットを絞った商品構成と空間づくりとなり、生活における価値観や思想を軸にした独自の視点で商品をセレクトするライフスタイルショップの流れが生まれました。
アイテムは生活雑貨からインテリア、ファッション、食に至るまで幅が広く、そのひとつひとつがしっかりとした個性をもっている商品が多いのも特徴のひとつです。
ファッションとライフスタイルをミックスした「素敵な生き方提案」の空間は、その人の家に遊びにいったような空気感を醸し出す売場づくりになっています。

ニューヨーク:マーシーズのWD、ツインタワーが健在

 2016年 ラカグ(写真12)

 

ロンドン:リージェントSTのイルミネーション、迫力満点

 

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今後、お客様一人一人の自己実現をお手伝いできる売り場作り が模索されるなかで、デジタルサイネージや動画での表現、 ECと連携した情報発信、アプリで商品情報が分かるようになる等、 大きな変化が予測されています。

【写真提供】

写真1. 有限会社 スタジオダヴィンチ(田代悦子)

写真2. 有限会社 スタジオダヴィンチ(田代悦子)

写真3. 株式会社 三越伊勢丹 (荒木淳一郎)

写真4. 株式会社 京屋 (長谷川千春)

写真5. 株式会社 三越伊勢丹 (荒木淳一郎)

写真6. 株式会社 京屋 (長谷川千春)

写真7. 株式会社 三越伊勢丹 (荒木淳一郎)

写真8. 株式会社 三越伊勢丹 (荒木淳一郎)

写真9. 株式会社 三越伊勢丹 (荒木淳一郎)

写真10. 有限会社 ワークベンチ (山本伊都子)

写真11. 有限会社 ワークベンチ (山本伊都子)

写真12. 株式会社 サザビーズリーグ (阿部隼也)

(原田華江、山本伊都子)