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ビジュアルマーチャンダイジングの30 年とこれから

 
流通や小売においてもテクノロジーの進化は加速度を増していくばかりです。「AI」というテクノロジーのインパクトは「働き方のあり方」といった側面にまで影響を及ぼしそうです。また、個人が主役の時代になり、実店舗だけでなくwebサイト、スマホ、SNSなど、あらゆるチャネルでの「立地条件」を考慮しなければなりません。消費者が今何を考え、どんな消費行動をしているのか。様々な異なる条件からの分析が可能になり、ここでもAIによる個人分析がMDや企画の効率を上げるともいわれています。VMDはこの変化に対してどのように対処して行くべきでしょうか。

モノが溢れる時代に成長した消費者は、所有欲求が低くレンタルやシェアすることが増えています。そして商品を買うだけではなく体験を重視します。商品の新しい購入プロセスや売場でのコト体験など「新しい購買体験」は売場をどのように変えていくのでしょう。売場は「販売の場」から「顧客とのつながりをつくる場」へと変わっていくのではないかといわれています。すなわち、「品揃えをして、綺麗でお洒落なお店を出せば、人が集まる」時代は終わろうとしているということです。忙しい消費者が限られた時間に商品に出会うことができる空間。個々の目的や嗜好に対応し絞り込んだ商品提案。自分と向き合う時間までも提供できる空間……どれも顧客とのつながりから始まります。

VMDはそうした空間において、「Vから五感へ」「世界観・空気感」をつくる知識とスキルが求められています。入店・誘導・滞留時間延長を促すためには世界観・空気感をつくる必要があり、その居心地のよい体験が顧客満足を生みブランドを形成していきます。また商品やその背景までを魅力的に伝えるには、ビジュアルだけでなく五感に響く体験として記憶に刻まれることが効果的です。

もとよりVMDはMDの視覚化ですが、このように実店舗に求められるものが視覚だけでなく五感の要素に拡大・多層化され、顧客への特化した体感や体験が注目されると、VMDそのものの定義は変わらないまでも、表現要素は変貌し、V(視覚化)の意味が改めて問われる事態へと進展するでしょう。つまりMDの視覚化という意味が、MDを含む世界観の体験(Experience)、VMD風に記せばEMDとでも表記しうるような状況に変わりつつあるということではないでしょうか。
一方で、従来の美的に編集された売場に留まらない新たな購買体験の場を創り出すとしても、人が享受する外的刺激の8割は視覚情報と言われます。VMDは顧客がワクワク感動し、楽しく快適に購買体験をするためのブランド表現の要素も強く、EMDの状況下でもブランド・ショップコンセプトの表現基盤は視覚にあります。

従来に無い多様な購買チャネルが流通や小売の現場に新たな可能性を持ったビジネスを創出していますが、今後は、このような新たなビジネスとVMDがどのように融合可能かを図りつつ、様々なチャネルにおけるVMDの可能性を試行する必要があります。そこでのMDの視覚化は、特別な購買体験によって成立するかもしれません。ポジティブに捉えれば、変貌する現状に対する多様な答えが生まれる可能性もあります。

従来型のVMDに加えて、このように変わりつつある新たなVMDに関して、様々な視点からの分析検討が取組むべき大切な課題となっています。今後、協会は会員の衆智を集め、継続的なミッションとして取り組まねばならないと思います。

(田代悦子、楫義明、山本伊都子、宮原清)