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VMDとショーウインドウ


ショーウィンドウとVMD ―VMDが果たす社会的な役割―

 
ショーウィンドウは、「情報を伝えることを目的にディスプレイを行なうガラスで隔てられた空間」です。この空間は、まさにVMD(ヴィジュアルマーチャンダイジング)のシンボルであり、最大のメディアといえるでしょう。

銀座のランドマークである和光の時計塔のショーウィンドウは、従来、勅使河原蒼風、亀倉雄作、伊藤憲治、原弘、脇田愛次郎という日本を代表するデザイナーの作品が彩っていました。巨匠たちに替わり私が和光の社員としてこのウィンドウデザインを手がけたのは、入社10年目の1970年。それから2000年夏までの約30年間デザインをしてきました。その後、2003年から2013年までの10年間は、北海道札幌駅にあるJRタワーさっぽろのショーウィンドウのデザインを担当しました。ショーウィンドウの仕事に限ると40年やってきました。

もともと銀座和光では、店舗設計、展示デザインから、宣伝、広報、PR誌の編集発行人と、店に関わる広範なアートディレクションをしていましたが、81歳の今も興味が尽きないのはショーウィンドウです。まさに「ショーウィンドウほど素敵な商売はない」の心境です。これは中学生のころに魅せられたアメリカのミュージカル「アニーよ銃をとれ」に登場する歌「ショーほど素敵な商売はない」をもじった言葉です。

よくいろいろな方から、「デザインのアイデアはどうやって生まれるのですか」と聞かれます。そんな時には「デザインのアイデアは身体から湧いて出てきます」と答えています。頭脳でデザインするのではなく、私にとってデザインは、人間に蓄積された経験から生まれ出ると思えてなりません。満州生まれの私の脳裏に残るのは、哈爾浜市(ハルピン)の都会的なレンガ造りの街並みです。玉葱のようなロシア風の屋根、町を流れるスンガリーという川の上の広い空、ロシア人の家族に招かれて父と訪ねた時に見たクリスマスの飾りや子豚の丸焼などですが、これらが私のデザインの原風景になっています。机の上ではデザインができないたちで、街を歩いているとデザインのアイデアが浮かびます。

「店」は往来を往く人々への「見せ棚」という商いの仕掛けから生まれた言葉です。なので、店には「見せる」がつきもの。私たちのVMDは、店の個性を視覚に訴えてお客様をもてなす役割があると思っています。視覚的な「おもてなし」です。そのアートディレクションが大切なのです。

おもてなしに必要なのは、「共感」と「驚き」だと考えています。「共感」については、人間がもっとも興味をもつのは人間なので、銀座では素敵なマネキンが数多く登場しました。エレガンス、美しさを追求していました。「ボディペインティング」「人垣」「人の気配」「身ぶり」「仮面」などというテーマでマネキンを並べたり、“人の手”でショーウィンドウをデザインしたりしました。一方、「驚き」のおもてなしでは、動物を使いました。動物の姿はまさに驚きの存在です。空想の動物である「龍」を銀座の2つのウィンドウをつなげてデザイン。ウィンドウいっぱいの「恐竜」や「クジラ」、電飾をつけた「犀」が登場しました。


札幌では、道行く人々を花鳥風月でおもてなししました。その中でも鳥が多かったです。「鳥の誕生」「火の鳥」「雪鶴」「孔雀」「春告鳥」などです。北海道の、季節ごとの光や風などの空気感を自分でも知らずに吸収していたのでしょう。「秘境」「収穫祭」「春の嵐」「夏色の森」「三日月」など、表現が難しい「いのち」がデザインテーマになっていきました。

驚きと共感は、人の心を躍らせます。まさに「おもてなし」することで、人々が幸せで楽しくなることが何より必要だと思います。まさに、それこそがVMDが果たす社会的な役割のような気がします。

ニューヨーク:マーシーズのWD、ツインタワーが健在

 

ロンドン:リージェントSTのイルミネーション、迫力満点

 

パリ:フランスらしいシャンデリアが美しい

 

ニューヨーク:マーシーズのWD、ツインタワーが健在

 


 


 

(八鳥治久)